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「店に一万円の洋服を置く。売れない。店主はやけくそになり一万五千円の正札に替える。
これが売れるんだ。日本人は総じて物を見る目がなくなった。なぜか分かる?給与は茶封筒から明細に、
支払いも現金からカード。便利な半面、お金のありがたさが分からなくなったから。
人間はお金を身につけ、懐具合が寂しくなって、いやが上にも物をよく見て選ぶようになる」
戦後間もない一九四八年、ドラゴン商会を創業、貨幣、切手商に。古銭類の鑑定の第一人者。
南区井土ケ谷上町の店舗と倉庫には紀元前四〇〇年以上前の中国・周代の貝貨、刀幣、布幣や、その後の中国、日本の古銭など約一万種以上を収集、販売する。
「長年、この商売をしていると経済の先行き、国の盛衰が見える。例えは、明治から昭和にかけての一銭。(商品棚のガラスケースに七枚並べて)だんだんと小さくなった。素材の質も銅、ニューム、スズに落ちた。まさにインフレの象徴。戦後も五十円玉が小さくなった。国は膨大な国債を乱発、今後もインフレ政策をとらざるを得ない。国力が落ちているってこと」
古銭ブームで横浜市内に一時、約二十軒の小売貨幣商がいた。が、今はドラゴン商会を含め二軒。
投機目的で、"銭もうけ"のための収集家がバブル崩壊のころまでに姿を消した。
「東北地方の若い医師がある日、来店した。会話は弾み、私は彼にこんな話をした。三蔵法師はインドに
旅する途中、西域の高昌国に寄って、国王にもてなされた。帰路、見たのは唐朝に滅ぼされた廃虚の国。西
遊記には『三蔵砂上に立ちて落涙す』とある。来店の一週間後、偶然、高昌国の珍しい古銭を入手。夜、医師に電話で伝えたら、翌朝、医師が東北から駆けつけ、店前で待っていた。よほどその古銭がほしかったのか」
バブルが終わった今、本当のコレクターが残ったという。居ても立ってもいられぬほどの古銭の魅力とは何なのか。
「収集家は形や字にほれたり、学者が歴史の実証のため集めたりもするが、共通するのは遠い時代のロマ
ンを、当時の古銭越しに思いをはせるため。私は商人だ。売って、喜んでもらうことに徹している」
コレクターが減ると取引が減少、売り上げも落ちるはず。楽天家なのか。
「堅実な時代がいい。今は底だが、あとは上り坂だ。お金の本当の意味が分かるから、そう悟れる。砂上に設計図を描き、楽してズルしてもうけようと考える人が多いから、お金はいやしさの象徴にされてしまうが、本来、例えば職人ならその腕の象徴なんだ」
(聞き手・古賀敬之記者) ― 協力: 神奈川新聞社
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